前回こちらで、大好きなブロガーさんや良記事を紹介しながら、自戒をこめて名文とはこういうものだ!という記事を書きましたが、今回は僕が文章の教科書としている本を紹介します。
■文章の師匠が見つかれば、半分成功したようなもの
1.毎月新聞 (佐藤雅彦)
まず紹介する一冊目は、佐藤雅彦さんのコラム集『毎月新聞』
趣味で文章を書き始めたばかりの大学1年の春、BOOKOFFでたまたまこの一冊を見つけた。
「僕が書きたかったものこれだったのか…!」と衝撃を受け、文章の書き方のイロハをまったくわかっていなかった僕は「こうやって文章を書けば、面白くなるのか!」と大興奮だった。
ちょうどその日、家でむさぼるように読んでいたら、東日本大震災が発生した。地震から数時間後、夜がやってきた。
停電していたので家の中は真っ暗闇だったが、この『毎月新聞』をどうしても読みたくて、初めて〝月の光〟で本を読もうとしたのだ。「蛍雪の功」という慣用句があるのを思い出して、蛍の光で勉強できるなら!と意気込んだが、暗くてまったく読めなかった。月の光ではまず本は読めないことを悟ったのだった。
佐藤雅彦さんの本では『考えの整頓』もオススメ。僕のブログ名「思考の整頓」はここから拝借したくらい影響を受けている。
「20代のうちに、師匠が見つかったら人生半分成功したようなもの」と聞いたことがあるが、文章を書き始めたばかりの頃、佐藤雅彦さんの本に出会えてから、めきめき文章が書けるようになった。
中学生でもわかるような平易な日本語で、それでいて何度読んでも発見のある鋭い着眼点。6年前から今でも変わらず僕の師匠だ。
佐藤雅彦さんに影響されて書いた記事↓↓
・「幸せの閾値と、子どもの世界が終わるとき」(2016/09/12)
・「"鼻くそ学級会"と電通社員の自殺について思うこと」(2016/10/24)
2.絶叫委員会 (穂村弘)
歌人・穂村弘さんのエッセイ集。穂村さんの本に出会うまでは、一切エッセイを読んだことがなかった。まるで興味もなかったのだが、そんな僕のエッセイ観を変えてくれたのがこの一冊。芥川賞作家・又吉さんも、この穂村さんのエッセイを読んで、エッセイに対する見方が変わったと著書で絶賛していた。
「そうそう、それ俺のことだよ!」と代弁してくれる穂村さんの文章で、初めてエッセイが面白いと思った。僕のエッセイの師匠は穂村弘さん。『整形前夜』などもオススメ。
↓↓こういうエッセイを書くきっかけになった人。
・「平和なキキまちがい」(2016/09/19)
・「美容院は、子どもを大人にする通過儀礼のようなものだ」(2016/09/26)
3.天才! (マルコム・グラッドウェル)
- 作者: マルコム・グラッドウェル,勝間和代
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2009/05/13
- メディア: ハードカバー
- 購入: 14人 クリック: 159回
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ビジネス書一冊書くのにいったんどれだけの取材をしているのだろうと唸らされた一冊がこちら。本作りの鏡だ。
本書は、どんな才能や技量も、一万時間練習を続ければ“本物”になれる「一万時間の法則」など、「成功」の要素を“個人の資質”だけでなく、周囲の環境や文化的な側面から考察した、いわば「21世紀の成功論」である。
一見とっつきにくい学術的な話を、わかりやすくストーリーに載せて語る著者の筆致は凄まじい。学術的な内容で本来なら読みにくいだろうところがものすごく面白く仕上がっている。
学術的な内容をストーリー仕立てにしている文章に憧れて、よく僕も研究結果を引き合いに出してブログを書かせてもらっている。それはこのマルコム・グラッドウェルの影響。3人目の文章の師匠だ。
他にも『逆転!』『第1感』『急に売れ始めるにはワケがある』もオススメ。
マルコム・グラッドウェルに影響を受けて書いた記事↓↓
・「風俗嬢は彼氏にただでセックスさせるのか」(2016/11/07)
・「18禁コーナーに入りたくなる心理を考察したら、ある一つのことがわかった」(2016/11/21)
・「M-1グランプリで生まれる「笑いの爆発」の正体とは」(2016/12/03)
■文章の面白さ=体験×思考力~体験の極限は命を懸けるということ~
4.詐欺の帝王 (溝口敦)
普段文章を書いていない人で、おぼつかない文章にも関わらず、読んでいて面白い!と思う記事に出会うことがある。それはたいていその人の体験がぶっちぎりに面白い場合だ。その人が体験したことが稀有な体験なので、仮に文章技術がなくても、それをそのまま文章にしただけで興味深くなる。
文章の面白さ=「体験」×「思考力」×「文章力」
だと思っているのだが、仮にはっとさせるような着眼点で切り込む「思考力」や、何気ない日常の話を最後まで読ませる「文章力」がなかったとしても、「体験」が今まで見たことも聞いたこともないようなことだったら、自然と文章は読みたくなる。つまり、人がしない体験をすることで、思考力を補えるのである。
その「体験」の究極形、行き着く先が「命を懸ける」ということだと思う。命を懸けて書いた文章が面白くないわけがない。
前置きが長くなったが、上記の二冊、ノンフィクション作家の溝口敦さんと高野秀行さんはまさに命懸けで取材を行っている。
溝口敦さんといえば、泣く子も黙る極道取材の第一人者。その溝口さんが、裏社会について取材を進めるうちに、つい六年前まで詐欺業界の周辺で「オレオレ詐欺の帝王」といわれていた人物に出会う。その人物から現代社会の闇を暴く一冊が『詐欺の帝王』だ。
また暴力団山口組の組長交代をめぐる記事の執筆を続けたことで、激怒させ、溝口さんの長男が刃物で刺されるという事件が起きた。それでも闇を暴き続ける姿勢は脅威すら感じる。
一方、終わりなき内戦が続き、無数の武装勢力や海賊が跋扈する「崩壊国家」ソマリア。その中に、独自に武装解除し十数年も平和に暮らしている謎の独立国があるという。それが「謎の独立国家ソマリランド」だ。
ソマリアは有名な話だが、海賊がでる。その海賊に身ぐるみをはがされないために、海賊を雇わなければならないらしい。高野さんは、「先にお金を取られるか後で取られるかだけの違いだ」と笑いながら語っていた。なんだ、このリアルワンピースの世界は。
もう一度言うが、危険を顧みず行った取材が面白くないわけがない。
あとノンフィクションなら『理系の子』や『紙つなげ!』も好きだ。
(ブログでノンフィクションを書いたことはないので今回は関連記事なしです)
■流派の違う師匠に弟子入りする
6.秒速5センチメートル (新海誠)
小説・秒速5センチメートルA chain of short stories about their distance (ダ・ヴィンチブックス)
- 作者: 新海誠
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/メディアファクトリー
- 発売日: 2007/11/13
- メディア: 単行本
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これは個人的な好みの話になるが、新海誠さんの『秒速5センチメートル』の小説からモノローグや情緒的な文章の書き方を勉強させてもらった。「君の名は。」とは違った面白さがある。
5年前にインタビューさせてもらったときのサイン。学生の頃、好き過ぎて自分で事務所に電話し、想いの詰まったメールを送りつけ、インタビューさせてもらった。「何があっても生き続けよう」と思う。
関連記事↓↓
・「"ワンチャン"しまくり100人斬りした慶應ボーイが、彼女一筋になった話」 (2016/10/10)
・「 20歳の渋谷系ギャルが教えてくれた大切なこと」 (2016/11/28)
7.まにまに (西加奈子)
西加奈子さんのおもしろエッセイ集。
人に本を紹介するときは、当然〝面白い本〟を紹介するわけだけど、僕の中で〝面白い本〟の一段上があって(ドラゴンボールで言うスーパーサイヤ人を超えたスーパーサイヤ人)、誰にも教えたくないとっておきの一冊のことだ。
でもさらにその上があって(ドラゴンボールで言うスーパーサイヤ人を超えたスーパーサイヤ人のさらに上のスーパーサイヤ人3)、そこまでいくと感動で誰かに伝えずにはいられなくなる。
それがこの一冊で、これが本当に面白い!
こんなに読んでいて声を出して笑ったのは初めてかもしれない。この『まにまに』から何気ない日常を笑いに変える文章の書き方を学んだ。
西さんに影響されて書いた記事↓↓
・「右足と私、どっちが大事なの。」 (2016/10/17)
・「関西人はツッコミでいつも忙しい」 (2016/11/14)
僕は小説をほとんど読まないので小説のことはよくわからないけれど、コラムやエッセイ、ノンフィクションならこういう本が好きだ。
僕のブログをよく読んでくださっている方なら気付いているかもしれないが、書く文体がよく変わる。これは流派の違う文章の師匠が何人かいて、それぞれに合わせて書いているからだ。
コラムなら「佐藤雅彦流」で、エッセイは「穂村弘流」、笑ってほしいような文章を書きたい時は関西弁バリバリの「西加奈子流」といった感じになる。
だから書く内容によって文体が変わる。そうやっていろんな流派の文章を取り入れて組み合わせることで、自分だけのオリジナルの文章になっていくのだ。
■文章術の本30冊以上読んで、本当にオススメする2冊
8.20歳の自分に受けさせたい文章講義 (古賀史健)
9.早大院生と考えた文章がうまくなる13の秘訣 (近藤勝重)
文章を書き始めて7年くらい経つが、最近はまったく文章術の類の本を読まなくなっていた。文章術本は腐るほど出ているが、結局、書き方の本をいくら読んだところで、文章はうまくならないからだ。
ただ、この記事を書くにあたって、もう一度自分の文章をゼロから見つめ直そうと数十冊読んでみた。昔読んだのも入れると今までで30冊以上読んだことになる。
ライターの学校のようなものには通ったことがないので、すべて本から独学で学んできた。どの本もオリジナルな部分は全体の1割くらいで、他は似たようなことが書かれているのでさくさく読めてしまうのだが、読むのが2回目にも関わらず『20歳の自分に受けさせたい文章講義』だけは途中で読めなくなってしまった。
考えさせられてしまったからだ。
「あのとき書いた文章、どう書いたらもっと良くなったか」「ここまでしっかりと考えて書けていなかった」と反省させられてしまった。
書いていること自体はとても平易で読みやすいが、いつもの3倍くらい読むのに時間がかかってしまった。そんな本なかなかない。文章の心構えはこの一冊で決まりだ。
あと上阪徹さんの『書いて生きていくプロ文章論』や『いますぐ書け、の文章法』(堀井憲一郎)も良書。
ただ、心構えを聞いたところで文章はうまくならないので、1、2冊これは!というのを読めば、あとは実践あるのみ。
実践で一番役立った本は、近藤勝重さんの『早大院生と考えた文章がうまくなる13の秘訣』
「書き方の本をいくら読んだところで、文章はうまくならない」と言ったが、唯一読んだだけで(読んでちょっと実践するだけで)文章がうまくなった本がこれだ。衝撃だった。
エッセイを書きたい人ならこれは絶対に読むべきだと思う。近藤さんの著書だと『書くことが思いつかない人のための文章教室』もオススメだ。これを読むだけで、本当にエッセイが上手に書けるようになってしまう。正直のところ紹介したくない一冊だ。
また、最近生まれて初めて手紙を書いた。手紙の書き方がまったくわからなかったので、水野敬也さんの『たった一通の手紙が、人生を変える』を読んでみた。
水野さんの徹底的な相手を喜ばせるという姿勢を学んだ上で書いたからか、手紙を送った相手から「たった一通の手紙であんなに笑えて感動できることってなかなかない」とすごく喜んでもらえた。手紙を書こうと思っている人はぜひこの本を参考にしてみてほしい。きっとより伝わる、相手に喜んでもらえる文章になると思う。
■文章力を上げるためには「読む、書く、体験する」
いくら文章術の本を読んだところで、結局は書かないと文章はうまくならないし、前回「こんな読んだ人の血肉となるような魂のこもった文章を僕は読みたいのだ」(2017/01/09)こちらで、本当にこれを書きたい!という想いがあれば名文になると書いた。
あとすべきとしたら、ガツンと殴られるような感覚を与えてくれるここで紹介したような良書を読むことだと思う。
特にどんな本を読むと良いかと言うと、「みんなが読まない本」がいい。みんなが読まないというだけで、その本に書かれている情報に希少価値が上がり、優位性が生まれるからだ。
では「みんなが読まない本」とは、どんな本かと言うと、「高価で分厚い本」、つまり「翻訳書」だ。しかも翻訳されて日本にやってきている時点である程度内容は保証されているので、良書である可能性がかなり高い。
人は「知らなかったことを知る」とき面白いと思う。そして知らなかったことを知ったとき、人は何かが変わった感じがする。
読者の貴重な時間をいただいて自分の書いたものを読んでもらうなら、読んだ後、読む前と比べていい意味で「何かが変わった」と思ってもらわなければならない。そのためにもみんなが読まない本を読んで、みんなが知らない情報を知っておく必要があるのだ。
①「みんなが読まない本を読む」
②「ひたすら書く」
③「人がしないユニークな体験をする」
文章上達はこの3つに尽きる。近道はない。
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