■「好きな子と誕生日が同じ」は運命か
10代の頃、好きになる女の子がことごとく4月生まれだった。
自分と同じ4月生まれだと知る度に「あ、運命なのかも」と思っていた。
大学に入ってからも、元カノと次に好きなった子が二人続けて4月生まれで、かつ同じ誕生日だったので、あぁやっぱり運命、と思っていた。
ところで、経営者は占いにはまる人が多いらしい。
「占星術を使わない億万長者はいない」と言われるほどで、なぜ自分の力で運命を切り開いてきたであろう経営者が、よりにもよって占星術といった自分の力の及ばない占いにはまるのか?
これには明確な理由がある。
それは、億万長者といった経営者は「他に頼るものがない」からだと言われている。
経営者は孤独で、一人でもがき苦しむ。その苦しみから逃れ、未来予測してもらい、少しでも不安を解消しようと、占いに走るのである。
僕の知り合いにも「いつも住まいは占いによって決めて、運気が良いところに定期的に引っ越すことにしている」と言っている外資系生命保険会社のエグゼクティブの方がいた。
占いでこれが良いと言われ、実際にやってみたらうまくいった。だから毎回大事なときは占いに行くようになった、と。
この占いにはまる経営者と、好きな子と誕生日が同じだから運命だと感じてしまう背景には、見逃されがちな一つの共通点がある気がする。
それは、物事の裏に「ありえなさそうだが、けっこうありうる」が潜んでいるということだ。
■「株価を確実に当てる」詐欺の手口とは
昔、こんな株式情報詐欺があった。
詐欺のカモとなる相手に対して、10週連続で株価の上下を予想して当ててみせる。それで相手を信じさせて、11週目の予想に対して金銭を要求するというものだ。
10週連続で株価を当てるなんてことが可能なのか?
これがあることをすれば、案外容易くできてしまう。
詐欺師の手口はこうだ。まず銘柄を一つ選ぶ。次に、何も知らないカモ候補を1024人選び、翌週の株価の動きの予想を送りつける。
その際、半数には株価が上がるという予想を、もう半数には下がるという予想を送る。株価は必ず上がるか下がるので、カモ候補の半数の512人にははずれの予想が、もう半数には当たりが届く。翌週、はずれ予想が送られた人のことは忘れ、当たり予想が届いた人だけを相手にする。
という具合に、この方法を繰り返すだけ。10週経ったとき、詐欺師が相手をするのは一人だけになる。
その人から見れば、予想は10週連続当たったことになる。相手に株価のことを熟知しているかのような錯覚させることができるのである。
そうして詐欺師は翌週の予想に対して、金銭を要求し、大金を巻き上げたのであった。
詐欺師は株価の成り行きの可能なすべてのパターンを予想してそれぞれを異なる人に割り当てており、そのため予測したパターンのどれか一つは必ず当たる。
そして当たったパターンを自分が未来を予測する能力を持っている証拠として提示する。
このように「起こりうるすべての結果を一覧にしたなら、そのうちのどれかが必ず起こる」のである。
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少し前の話になるが、2010年に行われたサッカーワールドカップで、「タコのパウル君」が、ドイツ代表による7試合と決勝の結果を当てたという"奇跡"のニュースを覚えているだろうか。
このタコのパウル君に未来を予測できる能力があるわけでもなんでもない。
8試合を当てる確率は256分の1なので、256に近い数の動物を連れていけば、予想が当たる動物が見つかる可能性は高まるというだけの話なのである。
実際、取り上げられはしなかったものの、各国7試合までは当てたという動物は他にも多数存在していた。(8試合目で外したから当然そこまで取り上げられず知られていない)
最後まで残ったのがタコのパウル君であったというだけで、「何かが必ず起こる」という単純な話なのである。
確率的には起こってもおかしくない出来事を、多くの人が奇跡だと勘違いする背景にはこういったことが隠されている。
■国営ロト2回連続で「同じ当選番号」は当たり前?
ただの偶然を奇跡や自分の実力だと勘違いする背景には、「十分に大きな数の機会があれば、どれほどとっぴな物事も起こっておかしくない」という法則も隠れている。
2009年のブルガリア国営ロトで当選番号が2回連続して同じということがあった。それに対しメディアが大騒ぎし、不正が行われたのではないかと大問題となった。
しかし、49個の整数から6個を選ぶロトが、週2回、年に104回行われるとすると、43年と少しで、どれか2回の当選番号が一致する確率は1/2を上回る。
当時、同ロトは始まって52年が経っていたので、そこまで驚くべきことではなかったのである。
そして、当選番号が2回連続して同じという結果だけが注目され、過去52年間ランダムに見えるパターンを出したほかの当選番号のことは忘れ去られるのだ。
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好きな番組で毎週欠かさず見ている「ダウンタウンなう」というTV番組があるのだが、以前に高額の宝くじが連続して当たった人達の特集がされていた。
当選者達が宝くじを当てるコツ(西にこだわって購入する、午前中に買うと当たりやすい等)を話していたが、そのときはあぁそうなんだと思わされてしまったが、あんなのはたまたま当たっただけなのだろう。
自分に起こった偶然の一致は、他人に起こったものより驚きが大きい。それが起こる対象はほかにも大勢いるが、自分は一人しかいないので、誰かほかの人に起こった場合と比べて、大きな驚きになる。
そのため自分が選ばれし者だと勘違いし、偶然を自分の実力だと思い込んでしまうものなのである。
それに宝くじを当てるには○○した方がいい、というのは後からならいくらでも言える。
例えば、的の中心に矢を射るためには、射た後、的を書けばいいのだ。うさんくさい宝くじの当てる方法もそういうカラクリだ。
「事象が起こったあとに選べば確率はいくらでも高くできる」。当たってから方法を語ればいくらでも語れるのである。
そして、今まで説明してきたように、連続して宝くじに当たるといった幸運な出来事だろうと、落雷に当たるのような不運な出来事だろうと、「十分な数の機会さえあれば起こりうる」のである。
自分に起こる確率は低いかもしれないが、地球には70億人が生きていることを忘れてはならない。
■人は簡単に「まぐれ」に騙される
ここまで確率マジックについて話をしてきたが、冒頭の「好きな子と誕生日が同じは運命か問題」について話を戻そう。
一つの部屋に誕生日の同じ二人がいる可能性が、いない可能性より高くなるためには、部屋に何人いなければならないのか?
答えはたった23人だ。23人以上が同じ部屋にいれば、誕生日の同じ二人がいる確率のほうがいない確率より高いのである。(詳しい計算式は『偶然の統計学』p.116)
さらに好きな子が、自分の誕生日である「4月13日生まれ」ではなく「4月生まれ」と範囲を緩めることで、いっきに確率が上がる。
つまり、好きな子が自分と同じ誕生月であっても運命でもなんでもないのである。
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途方もなく起こりそうにない出来事がなぜ次々と起こるのか。その正体が少しずつわかってきた。
僕たちが、偶然の一致に驚くのは、今回紹介してきたような「ありえないと思う原理」を考え合わせていないからである。
確率的に見れば起こってもおかしくない出来事を「奇跡」と感じたり、「異常」だとみなしてありもしない因果関係やパターンを探し始めたりする。その結果生まれたのが、迷信や予言、神々と奇跡、超常現象といった類いである。
しかし、今まで「ありえない」と思っていたことは、実はけっこう「ありえる」のである。
人間は、確率をすぐに見誤る。偶然に騙され、それらを運命または自分の実力だと感じてしまうのである。
と、こういうことをわかっている確率リテラシーのある人でも、好きな子と誕生日が同じだと知ったときはやはり運命だ!と感じてしまうのかもしれない。
「恋は盲目」とはよく言ったもので、人間が確率を直感的に把握するのが苦手であること以上に、それはそれで人間の性なのかもしれない。
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