バルミューダはとても怖い。
見る度にいつも〝戦力外通告〟を突きつけてくるからだ。
最近、我が家に「バルミューダ」がやってきた。
バルミューダの高級トースターはとてもスタイリッシュだ。
見た目は誰もが気に入るであろう白で、作りはとてもシンプル。
説明書なんて無くてもすぐに使いこなせる。
たぶん無印製品が好きな人は大好物だと思う。
そんなバルミューダが我が家にやってきてすぐに使ってみたのだが、今までのトースターとの違いが早速一つ見つかった。
パンを焼く前に「水」を入れるのである。
小さなカップみたいなのが付いていて、それに水を入れ、焼く前にバルミューダに注ぎ込む。
さすがバルミューダだ。
パンは焼かれる前に水を浴びる。
いや、あのバルミューダのことだ、ただの「水」ではなく「高濃度酸素水O2」と言った方がいいのかもしれない。
それにしても、
「パンは焼かれる前に水を浴びる」
なんてスタイリッシュな言葉なんだ。
バルミューダの話となると「ローマは一日にして成らず」くらいオシャレな慣用句に聞こえてくる。
「パンは焼かれる前に水を浴びる」
深い……深すぎる。人生で大事なことは全てこの一文に含まれているではないか……
そう囁かれていてもおかしくない。
そのため、料理を一切しない料理オンチの僕にとって、バルミューダが味方についてくれれば、向かうところ敵無しだ。
天下無双、破竹の勢い、天上天下唯我独尊といったところか。
ちなみに「天上天下唯我独尊」の意味はよく知らない。
これが僕のバルミューダ観である。
ところが、だ。
ここで僕のバルミューダ観を揺るがすほどのある重大な出来事が起こった。
それは、「変わらない」のである。
何がって?
バルミューダで焼いたパンはとても美味しいと聞いていた。
変わらないのである。
そう、味が。
普通のトースターと比べて。
とても困った。
僕がバルミューダにふさわしくない男だということが明らかになってしまったからだ。
バルミューダ失格の烙印が押された瞬間だった。
僕の中のバルミューダは完全に崩れ去る。
あぁそうだ、はっきり言おう。僕は何を食べても美味しいと思ってしまう習性がある。
以前、一人暮らしなのに電子レンジを持っていない友達に「レンジないから作ったら毎回一発勝負やねん。戦いやで」と言われた。
でもトースターはあるらしく、「パンは焼かれへんと一発も勝負できへんからな。試合放棄はあかん」と謎に力説され、今年一番の「お、おう……」となったのだが、
僕の場合は一度も勝負させてもらえなかったスポーツ選手のような気分だった。
まさかのプロ入り初日で戦力外通告を受けてしまったのである。
このとき、久しぶりに思い出した僕の幼稚園の頃の話がある。
僕の家族は毎朝、食パンを食べる。
なのに、急にお姉ちゃん(10才)が「このぶどうパン美味しいね」と言い出したのである。
ここで家族全員の頭の中に疑問が浮かぶ。
「ただの食パンのはずだが」と。
家族全員で姉のパンを覗き込んだ。
すると、なに大した話ではない。
姉がぶどうだと思ったのは、ただのカビで、食パン一面にレーズンサイズのカビがたくさんはえていたのである。
それをぶどうだと勘違いして、(いつもはただの食パンなのに今日は)「ぶどうパン美味しいね」と言ってしまったのであった。
これは正真正銘の実話である。
このときからすでに、僕たち家族はバルミューダではなかったのかもしれない。
今ではバルミューダがとてもこわい。
見る度にいつも「戦力外通告」を突きつけてくるからだ。
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