■居眠りをする学生がいなくなったほどの一言
就活生だった頃、あるベンチャー企業のサマーインターンの説明会へ行った。
その説明会は土曜日の朝9時から始まり、大学の1限もまともに行けたことのない僕にとって辛い時間帯だった。そのため説明会の間、思わずうとうとしてしまい、居眠りをしそうになっていた。
それは周りの学生にとっても同じことで、思わず居眠りをしていた学生はかなりの人数いた。
しかも会社の説明をしていた代表取締役は、なんとサンダルにTシャツ短パンの髭面の男であった。うさんくさい風貌と説得力のない話し方で、眠さはさらにエスカレートし、「今日来たの間違いだったかなぁ」とまで思っていた。
しかし、その後である。その髭面の男が、さらっと「起業する前はGoogleにいまして……」と言った瞬間、無意識に気が引き締まって、急に目が覚めたのであった。
それはやはり僕だけではなく、周りの学生もそうで、「Google」と聞いた瞬間、居眠りをする学生がいなくなったのである。
その時、サマーインターンの説明会で寝てしまったことに対してではなく、「Google」と聞いた瞬間、盲目的に話を聞き始めた自分がなんだか少し怖くなった。
■耳の薬を、肛門にさす
この権威による盲目的反応は、医学界で特に起こりやすい。
こんな医療ミスがある。
ある医師が感染症で痛みを訴えている患者の右耳に、耳の薬を指すように指示した。その医師は処方箋に完全に「Right ear(右耳) 」と書かずに、 Rightを略して、「place in R ear」と書いた。この処方箋を受け取った担当の看護師は、正しく指定された滴数の耳の薬を、患者の肛門(rear)にさしたのであった。
耳痛のために直腸を治療することに意味がないのは明らかである。しかし、患者も看護師もそれを疑問に思わなかったのであった。
正当な権威者が発言する多くの状況では、たとえ権威者が間違っていても、それに対して疑問を差し挟もうとはしないのである。
■肩書きによる身長の歪み
この権威による盲目的服従は、何も医者のような積み重ねられた努力をしてきた人にだけではなく、単に「肩書き」だけで起きてしまう。
試してみてほしいことがある。大学1年生に、サークルの先輩である4年生(特に代表)に身長を聞いてみてほしい。
おそらく本来の身長よりも高く見られている可能性が高いはずだ。
中学生の頃、僕は野球部だったのだが、1年生の時の3年生は実際よりもはるかに大きく見えていた。自分が3年生になっても越えられる気すらしなかったくらいだ。
肩書きによって、身長の知覚に歪みが生じることがある実験でも明らかになっている。地位が上がるごとに同じ人物の身長が平均約1.5センチずつ高く知覚され、「教授」の場合には「学生」の場合より6センチも高いと知覚されるそうだ。
他の研究では、選挙で勝利した政治家は、選挙前よりも選挙後の方が身長を高く見積もられることがわかっている。
つまり、物を大きく見せるのは、自分にとっての重要性が一役かっているのである。
■制服の学生は、大人の注意の的
機械的な反応を引き起こすのは、「肩書き」だけではなく、「服装」もそうだ。
高校も大学も電車通学だったのだが、電車内で一つだけ変わったことがあった。それは「大人から注意されなくなった」ということである。
電車内での過ごし方はほとんど変わっていないにも関わらず、高校生の頃はよく知らないおじさんやおばさんに注意されてきた。
「ここで携帯使っちゃだめだぞ」「足を広げ過ぎないで」などなど。そんなことわざわざ言わなくてもと思うようなことまで言われた記憶がある。
しかし、これは私服なら言われないのである。おそらく「学校の制服という服装」が「大人からの注意されるべき的」として機能していたのであった。
■〝先輩マジック〟に騙されるな
なぜ人々はこんなにも肩書きに弱いのか。
自分の頭で考えず、権威者に従うことは多くの利益をもたらしてきた。親や教師は僕たちよりも多くのことを早くから知っていて、彼らの忠告に従うことが自分のためになることを僕たちは知っているからだ。
しかし、上記で挙げたような例で、肩書きで簡単にだまされたくない人は「この権威者の言っていることは正しいことなのだろうか」と考える必要がある。権威からの要求に服従させるような強い圧力が存在しているのである。
「人は見た目が9割」と言うが、肩書きや服装には本当に注意が必要だ。
「先輩」という肩書きだけでモテる〝先輩ブランド〟や〝先輩マジック〟という名の権威で、今までどちらかと言えばそれらを享受してきた身として、このブログを書くことは大変はばかられたのだが。
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