思考の整頓

"もやもやしたもの"に輪郭をあたえる

僕の名前は〝もりい〟です

ずっと思い悩まされてきたことがある。

名字を間違えられることだ。

f:id:yuyu413:20190122145142j:plain

僕の名字は「森井」と言うのだが、どう間違われるかと言うと「森」と間違われる。

悪夢は13歳から始まった。

中学生の頃から通い始めた塾に「森」がいたのである。

 

先生が「はい、じゃあ次、ここ読んで。森!」

鎌倉時代は…」

森くんがテキストを読み始める。

するとすぐに先生は僕の方をがっと振り向き、

「井~!!!!」

と叫ぶ。

当てられたのは、森くんではなく僕の方だったのである。

「森を当てたと見せかけて森井を当てる」という松浦先生からのいじりが始まった瞬間だった。

このときから「森」と呼ばれているのか「森井」と言われているのか、耳をすまさなければいけなくなったのである。

友達に「森の呪いやな!ははは」と言われた。

 

 

高校でもそうだ。

高校3年の12月に、週3回を2年間、授業で会い続けた日本史のイハラ先生から、休んでいたので僕だけあとで答案用紙と日本史のプリントを渡された。

点数が見えないよう半分に折られて渡された答案用紙の裏には、小さく「森くん」と書かれていた。

 

僕はこの2年間を疑った。

 

イハラ先生は僕のことをずっと隣のクラスにいる「森くん」だと思っていたのである。

 

そばにいた寺田と大西が爆笑していた。

ちなみにテストは98点だった気がする。

学年で一番の成績だったのに。

もちろん、最後の最後までイハラ先生に「僕の名前は森井です!」とは言えなかった。

 

それ以来、特に電話で自分の名前を言うときは「もり〝い〟!です」と〝い〟の部分を強調して言うようになった。

これは今でもそうである。そうでもしないと「もり」と間違われるからだ。

 

 

それから大学に入り、上京した。

東京には「森」がいなかった。

おかげでとても充実した大学生活を送ることができた。

 

社会人になって、名前を間違われるという宿命をすっかり忘れた頃、また後輩に「森くん」ができてしまった。

自分の避けられない運命を呪った。

 

しかし、僕にはもう「森」の免疫があった。

先輩から「森」か「森井」か定かではない呼び方をされても聞き間違えることは一度もなかった。

ところが、後輩の森くんは、度々、僕が呼ばれているのに「はい!……あっ、僕じゃないんですね、すみません」と聞き間違いをし、恥ずかしそうにしていた。

おそらく今までの人生で「森井」がいなかったのだろう。

聞き間違われる度に「すまない、来世は〝剛力〟とかに生まれてくるから」と心の中で小さく謝った。

 

 

そうゆえば、大学生の頃、ハーフの後輩にミドルネームが〝モリーホワイト〟という子がいた。

「あっ、この子と結婚したら〝モリーモリーホワイト〟になるのか。ワンピースに出てくる〝トニートニー・チョッパー〟みたいでかっけぇ!」

もうその子が好きになる。バカだ。

そんな話を女友達にしたら「わかる!!!!!」と言われた。

えっ、わかるの?ほんとに?

「私、下の名前が〝よしの〟だから、吉野くんと結婚したいの!だって吉野くんと結婚したら〝よしのよしの〟になるじゃない。すごく良いと思わない?」

思わない。そんな〝まえだまえだ〟みたいなお笑い芸人はいらない。

「……それか、染井さんと結婚したいかな。〝そめいよしの〟。ね、趣があっていい名前でしょ?」

バカだ。類は友を呼んでしまった。

 

 

そうこうしているうちに、先月、姉が結婚式を挙げた。

姉の名字が変わったのである。

「そうか、お姉ちゃんは〝森〟から避けられる運命だったのか」と気づかされた。

姉は〝森〟の呪縛から解放されたのである。

とても羨ましかった。

 

ところが、である。

初めて姉の旦那さんと顔を合わせることになったとき、僕はある異変に気づいた。

姉が旦那さんのことを「名字に君付け」で呼んでいたのである。

例えば、相手が〝磯野カツオ〟だとすると、「カツオ君」や「カツオ」とかではなく、ずっと「磯野くん」と呼んでいるのである。

付き合ったばかりならまだしも、もう知り合ってずいぶん経つ夫婦だ。

 

恐る恐る聞いてみると、姉の旦那さんは下の名前が「ゆう」と言うらしかった。

姉は僕のことを「ゆう君」と呼んでいる。

なので旦那さんのことを下の名前で呼ぶと、僕を思い出してしまって嫌だからと、

結婚した今でもずっと旦那さんのことを「名字に君付け」で呼んでいたのである。

ただただ申し訳なかった。

かぶることのないキラキラネームを初めて羨ましく思った。

これも「森の呪いか」と思った。




ということで、名字が〝森井〟になりたいという覚悟のある独り身の方、いつでもお待ちしておりますので、僕までどしどしご連絡ください。

 

 

 

 

Twitterはこちら

森井悠太 (@yuyu413) | Twitter

Facebookはこちら

https://www.facebook.com/yuuta.morii.12

 

■関連記事

ここで関連記事を貼るときに気付きましたが、過去に二回も「聞き間違い」についてのエッセイを書いていました(笑) それだけネタになるってこと?