思考の整頓

"もやもやしたもの"に輪郭をあたえる

初めての世界は、何気ない一言から始まるのかもしれない

もう年の暮れですね。

年を取ってくると、初心というものを忘れてしまうもので。忘年会で後輩に会うと、当時大学生だった頃の熱い想いみたいなのを思い出すわけですよ。

そんな初心で一番想い出に残っている話があるので、それを書いて、2016年のブログ納めとしようと思います。

こっそりでもいいので、森井のブログを読んでくださった方ありがとうございました!

2017年もどうぞご贔屓よろしくお願いいたします!


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大学生になって初めてのアルバイトでのことだ。
本好きが高じて、本屋さんで働くことになった。

緊張で震えながら行ったアルバイト初日、店長にまず店内を案内された。
ここはこういうジャンルの本が置いてあって、あそこは受験参考書ねと。

「あ、ちなみに書店員の特権として、発売よりちょっと早く本が買えるから欲しい本があったら言ってね。」

「この前、フジタさんなんて発売前に『株式取引』なんて本買っていてね、インサイダー取引やってるんじゃないのって話題になってたんだから」

と陽気な店長の軽快なトークが披露された。これが書店員さんのつかみの鉄板ネタみたいだ。

初めてのアルバイトでうまくやっていけるかすごく心配だったのだが、なんだか楽しくやっていけそうだと「はい、じゃあ僕も株の勉強しときますね!」と緊張しながら、元気良く返した。
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次にレジ打ちについて教えてもらった。
「本屋さんはまずはレジ打ち。本の後ろにあるバーコードをここにかざしてピッとすれば読み取れるからね。

あと最後に「客層」のボタンを押すの。お客さんが男性か女性か、そしておおよそでいいから20代前半なのか後半なのか年齢のところを押してね」

あぁこうやって本屋さんはマーケティングしているのかと、消費者だと知り得なかったことを知った。

次から次へと入ってくる新しい情報に置いて行かれないように、店長から聞いたことを必死にメモしていく。

「いらっしゃいませ」
「ありがとうございました!」
「またどうぞお越しくださいませ~」

そんなことメモしなくてもいいだろうということまでメモをしていた。僕はバイト先に電話するときは、話す内容を必ず先に紙にメモし、内容を一字一句違わずそのまま電話で震えながら話すようなやつだった。

だから、これはオトナになるための必要な通過儀礼だったんだなぁと今になって思う。
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その後、社員さんに横で付いてもらいながら、実際にレジをやらせてもらうことになった。

いつも身近にあった本に囲まれていたからか、レジ打ちにはすぐに慣れた。周りが見えるようになってきたおかげで、いろいろと気づいたことがある。

そのうちの一つに「買う本を見れば、その人の心理状態がわかる」ということがある。

例えば、この4冊を買っていった人がいた。

『ストレスがたまった人が読むための本』
『人付き合いが嫌いな人へ』
『性格は捨てられる』
俺の妹がこんなに可愛いわけがない

上3冊からあぁこの人仕事で病んでいるのかなぁと、でも前向きに問題を解決しようという意思が、

それでもだめだった時のために、最後の4冊目のラノベでアニメの世界に現実逃避できるようなラインナップだと見てとれる。

本は読む人の悩みを解決するためにあるのかなぁと意外と忘れがち大切なことをレジ打ちをしながら学んだ。
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この日は、日曜日でお客さんがたくさん来ていた。ラッシュ時間が過ぎ落ち着いてきた頃合いで、ある社員さんに何気なくこんなことを言われた。


「さすが慶應生、やっぱり優秀なのね」

僕が初めてのレジ打ちに一度もミスをすることがなかったことや、妙に落ち着いていたように見えたからだろうか。

深い意味は特になかったのだろうけど、そう言われてとても変な、もどかしい気分になった。

というのも、大学に入り出会う人は増えたけれど、それでもそれは似たような人ばかりで、今までずいぶん狭い世界で生きてきたんだなぁと気付いたからだ。

周りは慶應生ばかりになっていて、そしてそれが普通だと思っていて。確かにあくまで一般的に見たら、慶應生=頭が良い、と思っている人がいるということも知らなくて。

例えば、最近クイズ番組でお笑い芸人のカズレーザーが大活躍だ。同志社卒のインテリ芸人としてもてはやされている。

世間一般的には同志社は勉強ができるとされているのだが、(別に嫌みでこんなことを言っているわけではまったくないので勘違いしてほしいのですが) たぶん東大生はもちろんのこと、慶應生もそうだが、同志社の人を勉強ができるとは思っていない。しかし、世間一般から見たら同志社は頭が良いとされている。

自分のいるカテゴリーは少数派なのか、それとも多数派なのか。おそらくその相場感というか市場感覚というものを見失うと、売れる本は作れないんだろうなぁとその時なんとなく思った。

少数派なのに周りみんな慶應生だと思っていた自分がもし本を作ったとしたら、慶應生に向けて作ることになるのだが、慶應生は少数派なので買ってくれる人のパイはもちろん少なくなる。よって売れない本になってしまうかもしれないということだ。

市場感覚を見失ってしまっていたこと、まったく知らなかった本があること、買う本でその人の置かれている立場がわかること、客層ボタンでマーケティングしていること。

身近にあったはずの本だったが、知らないことだらけで、今までずいぶん狭い世界で生きてきたんだなぁと気づかされて、「さすが慶應生、やっぱり優秀なのね」の一言にどうしようも無くもどかしくなった。
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すぐに覚えなければならないことや、いろんな気付きで学んだメモを何ページも使って書き、見直していたら、もう閉店の21時間際になっていた。

最後にやってきた女性は髪の長いとても綺麗な人だった。

僕の作業の手際の悪さが目立ったのか、それとも胸にでかでかと"研修生"と書かれた名札に気づいたのか、

「丁寧に本を包んでくれてありがとう。今日が初めて?とてもいい笑顔をするね。頑張ってね。お姉さん応援してます」

と、とても丁寧に一言添えて本を受け取ってくれた。

人はこういう一言を忘れないし、何気ない一言を然るべきタイミングで言える人は本当にすごいと思った。

こういった圧倒的に影響力のある何気ない一言が初心を思い出させてくれる。

お店で"研修生"と名札を貼っている人を見るとよくその女性のことを思い出すくらいに、このアルバイト初日に受けた感動は今でも覚えている。

早く一人前の仕事ができるように頑張ろうと、今日一日聞いて書き留めたメモ帳を力強く握りしめた。

 

そして、初めて年上の女性が美しいと思った瞬間だった。この人とはもう一生会わないかもしれないが、それでもこの行き場のない想いをどうしても伝えたくて。

その女性はおそらく30代 後半なんだろうけど、そんな素敵な一言を添えることのできるあなたはとても綺麗で、若さが溢れていますと、感謝の気持ちを込めて、

客層のボタンを「女性 20代 後半」とポンッと弾くように、優しく押した。

 

 

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